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東京地方裁判所 昭和51年(行ウ)27号 判決

原告 有限会社ノーベル会館

被告 目黒税務署長

訴訟代理人 坂本由喜子 高梨鉄男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

第一請求の原因一の事実は当事者間に争いがない。

第二そこで、本件更正及び決定が違法であるか否かについて判断する。

一  更正の理由附記について

更正通知書に附記された本件更正の理由が別表二のとおりであることは当事者間に争いがないところ、原告は右理由附記は不備であるから、本件更正は違法であると主張するので、以下この点につき検討する。

1  法人税法第一三〇条第二項が、青色申告書に係る法人税の課税標準等の更正をする場合には更正通知書にその理由を附記しなければならないとしているのは、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものと解される。

2  そこで、本件更正の各附記理由につき、右法の趣旨に照らし、その記載が十分なものであるか否かにつき順次検討を加える。

(一) 「減価償却超過額(1)」について

附記理由として前記争いのないところによれば、右項目に係る附記理由は、原告が本件売買代金二九〇〇万円全額を建物勘定に計上しそれを減価償却費算定の基礎としていたのに対し、右代金中には減価償却の対象とならない借地権価額が含まれているから、同価額を除外して減価償却の対象となるべき本件建物の取得価額を算出すべきこと、本件建物の取得価額は、同建物譲渡人の調査により把握された同人の取得価額から同じく右調査により把握された同人保有期間中の減価償却額を控除して算出される三四七万〇七〇二円及び本件売買に際し支払われた支払手数料のうち按分計算により建物取得価額に算入されるべきもの六万七九七四円の合計三五三万八六七六円となること、したがつて、借地権価額は、本件売買代金及び支払手数料からそれぞれ右建物取得価額に算入されるべき金額を控除した後の金額の合計二五九六万一三二四円となること、そして、本件建物の取得価額と認定された右三五三万八六七六円から減価償却費限度額二八万九二八六円を算出し、原告が減価償却費として損金に計上した二三七万〇七五〇円のうち右減価償却費限度額を超える額である二〇八万一四六四円は、減価償却費超過額として損金算入を否認すべきことが示されているものと認められ、前記1の趣旨に照らし、右附記理由は十分なものというべきである。

なお、支払手数料中建物取得価額に算入すべき額を按分計算するのに際し、3,470,702/25,529,298を乗じているのは、3,470,702/29,000,000を乗じるのが正当というべきであるが、右計算方法の誤りは更正の理由附記の不備の問題とは別個の問題であり、前述のとおり、支払手数料のうち按分計算により建物取得価額に算入されるべき額を算出すべき旨が示されている以上、附記理由としては十分なものというべきである。

また、原告は計算過程中、譲渡人取得価額から減価額を控除し原告取得価額三四七万〇七〇二円を求める部分の記載は意味不明であると主張するけれども、右が本件建物の取得価額に関する記述であつてその趣旨が前述のとおり解されることは、附記された記載全体から明白に了知でき、譲渡人の固有名詞を記載しないからといつて更正の理由が不明確であるとはいえない。その他右項目に係る更正の理由が不明であるとする原告の主張が失当であることは前述したところから明らかである。

(二) 「減価償却超過額(2)」について

附記理由として前記争いのないところによれば、右項目に係る附記理由は、原告が本件宣伝機の購入価額一二万円を広告費として損金に算入していたのに対し、右宣伝機が減価償却資産に該当すること、当期において損金算入が認められる減価償却費は、右宣伝機の耐用年数が二年であることから二万〇五二〇円となること、したがつて、右差額である九万九四八〇円は損金に算入されないことを示しているものであり、前記1の趣旨に照らし、右附記理由は十分なものというべきである。

原告は、本件宣伝機が本件事業年度末に使用されていた事実につき、原告の帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示して具体的根拠を明示していないから、右附記理由は不備であると主張するけれども、前記項目に係る更正は、本件宣伝機購入費についてされた会計処理の税法上の評価を異にした結果されたものであり、前記使用事実の有無について原告の帳簿記載を否認したものではないから、これについて具体的な認定資料を摘示しなければ附記理由が不備となるものとは解することができない。

(三) 「損金に算入されない支払手数料」について

附記理由として前記争いのないところによれば、右項目に係る附記理由は、原告が越後屋商事不動産こと佐久間雅夫に支払つた手数料五〇万円を損金に算入していたのに対し、右は本件建物及び借地権の購入に要した費用であり(このことは、前示(一)の附記理由を合わせ見れば明白に了知できるところである。)、按分計算により本件借地権の取得価額に四三万二〇二六円、本件建物の取得価額に六万七九七四円を算入すべきものであるから、損金算入は認められないことを示しているのであり、前記1の趣旨に照らし、右附記理由は十分なものというべきである。

原告は、右按分計算の根拠が不明であるから、附記理由は不備であると主張するけれども、右按分計算の方法が前示(一)の「減価償却超過額(1)」の項目についての附記理由中に示されている計算方法によつていることは、算出された数額をみれば容易に了知でき、また右示された計算方法が附記理由として不備とはいえないことは既に判示したとおりであるから、原告の右主張は失当である。

(四) 「損金と認められない交際費」について

附記理由として前記争いのないところによれば、右項目に係る附記理由は、原告が支出先を「来客」として二二万円を、「神田店主任の諸経費」として一〇万円をそれぞれ交際費に計上し損金に算入していたのに対し、右各支出を確認する証拠書類が存在しないこと及び接待等の交際費支出の裏付けとなる事実が確認できないことを理由に、右各金額の損金算入が認められないことを示しており、原告の帳簿の記載を否認するにつき具体的根拠を明示しているものというべきであるから、右附記理由は前記1の趣旨に照らし、十分なものである。

原告は、右交際費を支出していない事実の具体的根拠を信憑力のある資料により摘示していないから、附記理由は不備であると主張する。

なるほど、法が更正の理由を附記すべきものとしている趣旨から、申告に係る所得の計算が法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿書類の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障したものであり、したがつて帳簿書類の記載を否認して更正する場合にはその根拠を右帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示することによつて具体的に明示することを要求すると解されるにしても、更正処分庁において積極的に帳簿書類に現れていない事実を認定し、これに基づいて更正する場合はともかくとして、本件のように帳簿書類の記載自体が明確さを欠いており(すなわち、支出先が「来客」又は「神田店主任の諸経費」と記載されているだけでは、支出の相手方及び支出の目的が明確とはいえない。)、もともとその信憑性に疑問があり、当該帳簿書類の記載を裏付けるに足りる資料が存在しないことを理由に、右記載を否認して更正する場合に、逆にその否認の根拠につき資料を摘示せしめることは不可能を強いるものであつて、かかる場合には、附記すべき理由中に、当該記載を裏付けるに足りる資料が存在しない等の理由を示すをもつて足り、これ以上に何らかの資料の摘示まで要求されているものではないというべきである。このように解したからといつて、納税者の不服中立てを困難ならしめるものではないし、更正処分庁の判断の合理性を担保する等の前記1に示した法の趣旨を何ら害するものではない。

以上によれば前示原告の主張が失当であることは明らかである。

(五) 「計上もれ借地権」について

附記理由として前記争いのないところによれば、右項目に係る附記理由は、前示(一)の「減価償却超過額(1)」の項目に係る附記理由と相まつて、原告が本件売買代金二九〇〇万円全額を建物勘定に計上していたのに対し、前示(一)のとおり、本件建物の価額と認めるべき三四七万〇七〇二円を控除した後の二五五二万九二九八円は本件借地権の価額として計上すべきであることを示しているのであり、前記1の趣旨に照らし右附記理由が十分なものであることは(一)に述べたところと同様である。

3  以上のとおり、更正通知書に附記された本件更正が不備であるとする原告の主張は失当である。

二  原告の所得金額について

原告の申告に係る所得金額が一一〇万六七五五円であることは当事者間に争いがないから、以下被告の主張する各加算減算項目につき順次検討を加える。

1  借地権計上もれ額のうち建物勘定混入分について

(一) 原告が昭和四七年四月六日東方書店から本件売買により本件建物を取得したこと、本件売買代金が二九〇〇万円であつたこと、原告が右代金全額に相当する二九〇〇万円を建物勘定に計上していたことは、いずれも当事者間に争いがない。

(二) そこで本件売買代金中に本件借地権の対価が含まれているか否かにつき判断すると、一般に建物はその敷地の使用権を伴つてはじめて経済的価値を有するものであるから、特段の合理的な事情が存在しない限り、建物の譲渡がされた場合には、その敷地の使用権も当該建物と一体として譲渡されたものと認めるのが相当であると解せられるところ、本件の場合、〈証拠省略〉によれば、本件売買契約書において、その表題が「借地権付建物売買契約書」と表示されていること、売買物件表示欄に本件建物のほか「一、宅地一〇七・九一平方メートル但し借地権」と明記されていること、契約条項第五条に、賃貸借名義の変更に伴う地主の承諾に関する売主の義務を定めていること、同第一四条に、右第五条の義務に関する特約を定めていることが認められ、これによると本件借地権が本件売買の対象となつており、原告が同売買により本件建物とともにこれを取得したことは明らかである。

原告は、右契約書の記載は仲介入が一方的に表示、記載したものである等の理由により、本件借地権を取得したことの根拠とはならない旨主張し、〈証拠省略〉には右主張に沿う供述があるけれども、契約書の文案を起草した者が誰であるにせよ、契約当事者たる原告が、売買物件その他これに関係する契約書の記載に注意を払つていないはずはなく、とりわけ〈証拠省略〉によれば、前示売買物件の表示及び第一四条に定める特約条項は不動文字で印刷された契約書用紙に書き加えられたものであると認められ、これらのことを考慮すると、原告の前示主張は到底採用することができない。

また、原告は、本件売買契約締結に至る交渉の経緯、本件建物敷地が収用された場合には本件借地権が消滅すること、本件建物取得後これを取り壊して新たに建物を建築していないこと、地主に対し高額の地代を支払つていることを理由に、本件借地権の取得がないか又はその対価は零であると主張する。

しかしながら、本件売買契約の締結に至る交渉の過程がいかなるものであつたにせよ、最終的に成立した合意において本件借地権が売買の対象とされていることは前認定のとおりであつて、〈証拠省略〉によれば、本件建物の譲渡人である東方書店の同建物の取得価額は四百数十万円であり、本件売買当時の客観的価額も右価額を超えることはないものと認められるのに対し、〈証拠省略〉によれば、本件借地権の価額については譲渡人側で二〇〇〇万円程度に評価していたことが認められ、さらに〈証拠省略〉によれば、本件建物所在地付近は学校、書店、飲食店等の存する学生街であつて、借地権に独立の経済的価値が存在し、その価額は地価の約八〇パーセント、裏通りでも約七〇パーセントであることが認められ、以上の事実に照らせば、本件借地権の価額が零であるとする原告の主張は全く合理性を欠くものであつて、到底採用することはできない。また、本件建物敷地が収用された場合には借地権についても損失の補償がされることは、土地収用法第六八条、第七一条の規定に照らし明白であるから、仮に収用が予定されている土地に係る借地権であつても無価値とはいえないのみならず、少くとも収用がされるまでの間はその土地の使用が可能であるから、その使用権が価値を有することは明白である。そして、〈証拠省略〉によつても、原告は本件建物取得に際し、敷地の使用権が伴つていることを当然のこととして認識していたものと認められるのであつて、本件建物敷地が収用を予定されている土地であるから、本件借地権価額が零であるとする原告の主張は失当である。また、建物取得後当該建物を継続して使用する場合と、それを壊して新たに建物を建築した場合とを区別して、前者の場合には当該建物敷地に係る借地権の取得がないあるいはその価値が零であると解すべき根拠はないから、この点に関する原告の主張は主張自体失当である。また、原告が地主に対しいかなる金額の賃料を支払つているにしても、それは賃借人・賃貸人間の関係であり、そのことと借地権譲渡人・同譲受人間において借地権対価の授受がされたか否かとは別個の間題であるのみならず、〈証拠省略〉によれば、本件借地権に係る賃料は近隣のそれに比して若干高額であるが、それは本件建物が鉄骨造りであることによるものであり、従前の賃借入が支払つていた額と変わらないものであることが認められ、右賃料額が借地権の譲渡価額に影響を及ぼすほどの高額なものとはいえない。なお法人税法施行令第一三七条の規定は、借地権等の設定等に伴い授受される権利金に対する課税に関する規定であつて、同条を反対解釈してみたところで原告の主張の根拠たりうるものではない。

(三) 原告は、本件売買契約に際し借地権の対価を支払つていても、右対価は建物の取得価額に算入されるべきであると主張するけれども、本件借地権が独立の経済的価値を有するものであることは既に判示したとおりであり、建物及び借地権の各取得価額を区別して計上すべきことは後記のとおりであつて、原告の右主張は合理的根拠を欠くもので、失当である。

(四) 右に判示したとおり、本件売買代金中には、本件建物及び借地権の各対価が含まれているところ、建物が減価償却資産であるのに対し、借地権は非減価償却資産であるから、減価償却費を正確に計算するためには、これを区分して計上することが必要なことはいうまでもない。

ところで、〈証拠省略〉によれば、昭和四七年四月現在の本件建物及び借地権の客観的価額は、安田信託銀行不動産部の鑑定により、それぞれ四一一万七九八三円及び三二七三万三九七五円(但し、借地面積一〇八.〇九平方メートルとして計算されている。)と評価されていることが認められる。

原告は右鑑定には客観性がないと主張するけれども、前掲各証拠によれば、同鑑定は不動産鑑定士の関与するものであつて、その正確性が担保されていると考えられ、内容上も特に不合理な点は見当たらないから、信用に足るものというべきである。

したがつて、右鑑定に係る評価額(借地権価額については、本件借地権の借地面積一〇七.九一平方メートルに換算した三二六七万九四六三円とするのが相当である。)の比は、本件建物及び借地権の価値の比を表わすものとして合理的なものと考えられるから、これをもつて本件売買代金額二九〇〇万円を本件建物及び借地権価額に区分すると、本件建物価額は三二四万五三七五円、本件借地権価額は二五七五万四六二五円となる。

(五) よつて、原告が建物勘定に計上した二九〇〇万円のうち二五七五万四六二五円は借地権に計上すべきものである。

2  借地権計上もれ額のうち支払手数料勘定混入分について

後記3に判示するとおり、原告が本件売買に際して不動産業者に支払つた仲介手数料五〇万円は支払手数料として損金に算入されているが、そのうち四四万四〇四五円は本件借地権の取得価額として借地権に計上すべきものと認められる。

3  支払手数料否認額について

(一) 原告が、本件売買に際して、不動産業者(東京都千代田区神田三崎町二丁目一番一七号佐久間雅夫)に対し仲介手数料として五〇万円を支払つたこと、右五〇万円を支払手数料として損金に算入したことは当事者間に争いがない。

(二) ところで、法人税法施行令第五四条第一項は、減価償却資産の取得価額の範囲について、その取得の態様に応じて規定しているが、右規定は公正妥当な会計慣行を明文化したものにすぎないものと解せられるところ、同施行令には非減価償却資産の取得価額の範囲についての規定は存在しないけれども、公正妥当な会計慣行を斟酌すれば、非減価償却資産の取得価額の範囲についても減価償却資産のそれに関する右規定を類推適用するのが相当である。

(三) そして、同規定第一号によれば、購入によつて取得した減価償却資産の取得価額となる当該資産の購入の代価には、当該資産の購入に要した一切の付随費用が含まれるものと解されるから、本件建物及び借地権の取得のために支出した前記仲介手数料は、右規定の適用又は類推適用により、それぞれ本件建物ないし本件借地権の取得価額に加算されるべきものであつて、本件事業年度の損金に算入されるべきではない。

原告は、仲介手数料は実費弁償料を意味しないから、右規定にいう「購入手数料」に該当せず、また「購入のために要した費用」にも該当しない旨主張するけれども、同規定が一切の付随費用を購入の代価に含めることとしているものと解されることは前示のとおりであり、右「購入手数料」が実費弁償の性質を有する手数料のみを意味しているものと解すべき根拠はなく、当該資産取得に際して不動産仲介業者に支払われる仲介手数料もこれに含まれるものと解して妨げないから、右原告の主張は失当である。

(四) ところで、前記仲介手数料五〇万円は一括して支払われたものであるから、これを本件建物及び借地権の各取得価額に区分しなければならないが、それには本件建物及び借地権の価額の比によつて配分するのが合理的であり、前記1(四)に示したのと同様の方法によるのが相当と認められるところ、これによつて右仲介手数料五〇万円を按分して計算すると、本件建物及び借地権の各取得価額に計上すべき額はそれぞれ五万五九五五円及び四四万四〇四五円となる。

4  広告宣伝費否認額について

(一) 原告が昭和四七年一一月一四日訴外日本包装機械株式会社から本件宣伝機を購入価額一二万円で取得し、同金額を広告宣伝費として損金に算入したことは当事者間に争いがない。

(二) 〈証拠省略〉によれば、本件宣伝機は、通常のパチンコ器にモーターの力によりパチンコ球を間断なく打ち上げる装置を施し、これを店頭に設置することによりパチンコ店の宣伝の用に供する器具であると認められるところ、パチンコ器は法人税法施行令第一三条第七号の器具及び備品に該当するものと解せられるから(減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表第一器具及び備品9参照)、本件宣伝機も右規定に該当する減価償却資産と解するのが相当である。そして、本件宣伝機は同施行令第一三三条所定の減価償却資産には該当しないから、その購入費用一二万円は本件事業年度の損金に算入すべきではなく、減価償却資産の取得価額として減価償却の対象とすべきものである。

(三) 原告は、本件宣伝機は購入から約一か月後通行入により破壊され、昭和四七年一二月三〇日廃棄したから、減価償却資産には該当しない旨主張するが、右のような事実は当該資産の性格を何ら変ずるものではないから、右原告の主張は主張自体失当である。

また原告は、右のような事実により、減価償却費控除後の残額は期末に除却損として処理されることとなるから、結局本件宣伝機の購入費用全額が本件事業年度の損金に算入されるべきであると主張し、〈証拠省略〉によれば、本件宣伝機は昭和四八年中にも三、四回修理されていること、少なくとも本件事業年度末には使用に供されていたことが認められ、この事実に照らせば、前記供述は措信できず、原告の主張は失当といわねばならない。

5  減価償却超過額について

(一) 前記1、3及び4において判示したところによれば、本件建物については減価償却費の算定の基礎となる取得価額が原告の計算したところと異なることとなり、また新たに本件宣伝機が減価償却資産として認容されることとなるから、右両資産につき本件事業年度において減価償却費として損金算入が認められる限度額を計算すると次のとおりとなる。

(1) 本件建物について

本件建物の取得価額は、購入価額三二四万五三七五円(前記1(四))及び支払手数料中本件建物の取得価額に計上すべき五万五九五五円(前記3(四))の合計額三三〇万一三三〇円となる。

本件建物の耐用年数について、被告は、本件建物の主要構造部分が四ないし九ミリメートルの鉄骨材を使用したものであること等の理由により右年数を三二年と主張するけれども、本件建物の材料に関する右被告の主張を認めるに足りる証拠はない。しかしながら、〈証拠省略〉によれば、原告は、確定申告書に添付した減価償却明細表において、本件建物の耐用年数を二〇年とし、定率法により減価償却費を算出している事実が認められるから、原告はその使用可能期間を二〇年と見積つたものとし、耐用年数は右二〇年として計算するのが相当であり、前示第一の当事者間に争いのない事実によれば、原告の事業年度は昭和四七年三月二三日から同四八年一月三一日までであるから、減価償却資産の耐用年数に関する省令第四条第二項の規定により、償却率は同省令別表第一〇減価償却資産の償却率表の耐用年数一二年に該当する〇・一〇四によるべきこととなる。そして、原告が本件建物を事業の用に供したのが昭和四七年五月からであることは当事者間に争いがないから、法人税法施行令第五九条第一項及び第三項の規定を適用して本件事業年度における本件建物の減価償却限度額を算出すると、二八万〇九一三円となる。

(2) 本件宣伝機について

本件宣伝機の取得価額は一二万円である(前記4(二))ところ、その耐用年数は前示のとおりパチンコ器と同様に解するのが相当であるから、減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表一により二年となり、なお前掲〈証拠省略〉によれば、原告はすべての減価償却資産につき定率法による償却の方法を選定しているものと認められるから、本件宣伝機についても定率法によつて償却限度額を計算することとし、前記(1)に示したのと同様に同省令第四条第二項、別表一〇により償却率を求めると、〇・六八四となる。そして、原告が本件宣伝機を昭和四七年一一月一四日取得したことは前示のとおり当事者間に争いがないところ、右取得後直ちに事業の用に供したものと認めて、法人税法施行令第五九条第一項及び第三項の規定を適用して本件事業年度における本件宣伝機の減価償却限度額を算出すると、二万二三八五円となる。

(二) 〈証拠省略〉によれば、原告は本件事業年度において本件建物に係る減価償却費として二三七万〇七五〇円の損金経理をしていることが認められるところ、右金額に後記7(三)に示すとおり原告が減価償却費として損金経理したものと扱うべき一七万五九五五円を加えた金額二五四万六七〇五円のうち、前記(一)(1)及び(2)の減価償却限度額の合計三〇万三二九八円を超える部分の金額二二四万三四〇七円は、法人税法第三一条第一項により本件事業年度において損金算入が認められないものである。

6  交際費否認額について

(一) 原告が、支出先を「来客」とした二二万円及び「主任諸経費」とした一〇万円の合計三二万円を交際費として損金に算入した事実は、当事者間に争いがない。

(二) 原告は、右「来客」として支出したものは暴力団員等に対して金員を交付したものであり、「主任諸経費」として支出したものは、顧客の慰撫等のための費用として支出すべきものとして、各遊技場の責任者たる従業員(主任)に対し交付したものであると主張し、〈証拠省略〉中には右主張に沿う供述がある。

しかしながら、右証言によつても、「来客」に係る支出の時期・回数及びその相手方は極めて漠然としており、具体的に特定できないこと、「主任諸経費」に係る支出については、当該金員の使途及び支出の相手先が具体性を欠いているのみならず、右主任から領収証を受領するとか一定時期において概算で交付された額と現実に費消した額とを精算するというようなことは行われていないというのであり、企業の支出行為としては極めて不合理な処理がされていることとなるところ、〈証拠省略〉によれば、同人は被告所部係官として昭和四八年九月ないし一一月ころ本件に関し原告本店において臨店調査したこと、その際原告の関与税理士立ち会いのもとに、元帳、経費、仕入帳、伝票類の調査をしたこと、前記「来客」及び「主任諸経費」に係る支出については帳簿に記載されていたものの、その内容及び相手先については右税理士から原告主張に沿う説明は何らされなかつたこと、「来客」に係る支出を裏付ける出金伝票等の資料もなかつたことが認められ、これらの事実からすれば、原告主張に係る支出行為の存在を確認することはできない。

そうだとすると、原告がした前記(一)の損金算入は否認されるべきものである。

(三) 原告は、前記原告の交際費の処理は監査役の監査を経て、社員総会で承認の決議がされているから損金算入を否認することは違法であると主張するけれども、右のような事情は、右損金算入の適否に何ら影響を及ぼすものではないから、原告の右主張は主張自体失当である。

7  減算項目について

(一) 建物勘定過大計上額

前記1のとおり原告が建物勘定に計上した二九〇〇万円のうち二五七五万四六二五円は借地権に計上すべきものと認められるから、同金額は建物勘定過大計上額として同勘定から減算すべきものである。

(二) 借地権計上認容額

前記3のとおり、原告が支払手数料として損金に算入していた五〇万円のうち、本件借地権の取得価額に相当する四四万四〇四五円は借地権に計上することが認められるべきである。

(三) 減価償却費認定額

前記3及び4に示したとおり、支払手数料のうち本件建物の取得価額に算入されるべき部分五万五九五五円及び広告宣伝費のうち本件宣伝機の購入価額一二万円はいずれも減価償却の対象とされるべきところ、これらについて原告は支払手数料又は広告宣伝費として損金に算入し、償却費として経理していないことは前示のところから明らかであるが、右項目につき右損金算入を否認した経緯に鑑みれば、一応これら全額が減価償却費として経理されたものとして、前記5のように、本件事業年度において減価償却費として損金算入が認められる金額を超える部分の金額を算出するのが至当であるから、右合計一七万五九五五円を減価償却費として経理したものとして容認することとする。

8  以上判示したところによれば、被告の主張二の6寄付金損金算入限度超過額につき検討するまでもなく、原告の本件事業年度の所得金額は四一一万四二〇七円を下廻ることはないこととなり、本件更正に係る所得金額四一〇万七六九九円を超えることが明らかであるから、本件更正には原告の所得金額を過大に認定した違法はないといわねばならない。

三  してみると、本件更正には原告主張の違法はなく、したがつて、本件更正を前提としてされた本件決定にも違法はない。

第三  よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三好達 菅原晴郎 山崎敏充)

別表一 (単位 円)

区分

年月日

所得金額

法人税額

過少申告加算税額

確定申告

48・3・30

一、一〇六、七五五

三〇九、六〇〇

更正及び賦課決定

48・12・21

四、一〇七、六九九

一、二六八、六〇〇

四七、九〇〇

別表二、三、四〈省略〉

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